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2017年02月19日
CD のハイレゾ化は可聴域のノイズ除去を忘れずに! ( Top Page

※ 今となってはアーカイブです.参考程度に読んで下さい.

 CD(コンパクト・ディスク) の高音質化(high resolutionn)に取り組んでやや1年,四苦八苦の連続であったが,ようやっと気に入った音も聞けるようになり,‘本来のハイレゾ化の入り口’にたどり着いたようだ.(2ヵ月後の追記:その後インターネット上の多数の記事を読むうちに,耳で聞き取れる ハイレゾ音=高音質音 の本質的な問題は可聴域に存在し,その部分が解決すれば,超高音域の問題はハイレゾ化ソフトで大筋解決される,との感触を得た).

 Upconv 設定画面話が長くなるので,結果を先に“聞いてみる”方がよいでしょう.ハイレゾ化には優秀な フリー・ソフト Upconv 0.7.4 を利用させていただいています.Upconv は初心者には設定が複雑なようなので,設定画面をアップロードしておきます(※ 設定変更 2017/06/10(右図をクリック → 拡大図).Upconv を試したことのある人はこれで直ちに利用できます(wav ファイルを「ファイル名」欄にドラッグして,「開始」する).<<完了オプション>> の スレッド(thread) は生成する Multi Channel ファイルの数かと思いましたが, CPU の性能を示す数でした( CPU-Z で各自のパソコンの thread数を確かめよう).ファイル I/O メモリバッファ(MB) は Adjust ボタンで各自のパソコン用に決まります. 場合に応じて変える設定は以下です.設定の詳細は Upconv をインストールしたフォルダにある upconv.pdf を参照のこと(検索で探すのが手早い)
追記(2017/06/10) Upconv 設定画面の変更:Option1→オーバーサンプリング(x2) にチェックを入れる(44.1kHzに変換したときに明らかな影響あり:エイリアシングノイズ ?).出力モードの変更:Noise shaping→Error Diffusion Method(24bit→16bit 処理を考慮).ABEオプション→ディザ/ノイズカット を 3 とする(24bit→16bit 処理を考慮).
HFC(Auto)_DL(0)_NR(100Hz,L2)_LPf( kHz)
※ HFC(高域カット周波数):
基本は Auto だが(古い CD や クラシックのものは Upconv が異常停止しないとは言えないないので,本当に初めての人は HFC 欄を 18000(18kHz) として始める(mp3 ファイルなら 16kHz))
※ DL(0):
ディザレベル(DL)=0 .その理由は後ほど述べます.変更したい人はそれからネ!
※ NR(100Hz,L2):
ノイズリダクション(NR)のカットオフ周波数=100Hz,NRレベル=2(これも後ほど説明).
※ LPf( kHz):
ローパスフィルタ=( kHz)=(設定なし) が基本.
 Upconv 変換画像右の「Upconv 変換画像」は HFC(Auto)_DL(0)_NR(100Hz,L2)_LPf( kHz) と設定した1例です.横軸は音の周波数(kHz),縦軸は音量(dB)にとった所謂 音のスペクトル表示 です.右図はある瞬間を切り取った図ですが,音楽の音は非常に広い範囲の振動数(=周波数)の音からなる複雑なものです.緑の線はその瞬間の生の音です.赤い線はその瞬間までの音量の最大値を表し,今後それを「ピーク」(正しくは ピークホールド波形)と呼ぶことにします.歌声/楽器の音は各人/各楽器に応じてある飛び飛びの周波数で特に強く出るという特徴があり弦や気柱の固有振動声紋による犯人特定,その結果ピークの音量は,その瞬間までに蓄積された歌声/楽器の音の特徴的な周波数に応じた,‘激しい振動’を表すグラフになります.右の図はピークの振動が低音から超高音まで詰まっていて,正に音楽の音で溢れています.なお HFC の Auto は 20.9kHz あたりに定まったようです.HFC 以上の周波数に見られるピークの激しい振動は,Upconv の倍音追加機能がよく働いていることを示しています.
 CD をパソコンに取り込むには フリーの iTunes が便利です.iTunes を開いて,「編集」→「設定」→「インポート設定」→「インポート方法」を「WAV エンコーダ」にする(※「オーディオ CD ・・・エラー訂正・・・」のチェックを忘れないこと).「詳細環境設定」→「詳細」でインポート先の[itunes Media] フォルダを確認しておく(※ 変更しても,アップグレイドのたびに戻されるので,そのフォルダへのショートカットを作っておく).追記:iTunes から Exact Audio Copy(EAC) に乗り替えました
 mp3,FLAC ファイルは 便利なフリー・ソフト EcoDecoTooL(えこでこツール) を用いて wav ファイルに変換しよう.すると,曲の演奏や歌声を(右上画像を作った)素晴らしいフリーソフト WaveSpectra で ―スペクトル表示と一緒に― 奏でることができます(※ wav ファイルを WaveSpectra に関連付けておくと,wav をクリックするだけで WaveSpectra が立ち上がり演奏が聞こえる)

1.発端
 元々は,6畳ほどの自室のパソコン用スピーカーをもっとよくして,良い音で聞きたいということだった.調べてみると,ホームシアターシステム というものがあり,本来はテレビと一緒に楽しむものなのだが,パソコンと HDMI ケーブルでアンプにつなぐと,パソコン側の CD 演奏や DVD 映像をアンプと繋いだスピーカー/テレビで楽しめるというものだった.当時,手頃な値段で評判が良かった BASE-V50 を購入したが,そのアンプ NR-365 (ネットワーク AV レシーバー) はかなりの優れもので未だに使っている(ファンが無いので,かなり熱くなる.そこで,パソコン用のファンを改造して USB ファンに転用 して使っている).スピーカーは,直ぐ欲が出て,サブウーファー( ONKYO SL-D501 )を購入したが,その後資金が尽きて,遙か昔の名器を ヤフオク!などで漁っている.現在,フロント/リア スピーカーは D-202AII/D-202A で,天井まで届く本棚の最上段に鎮座している(フロント の最終目標は D-202AIILTD である.追記:遂に2組競り落としました.フロントとリアでいい音出してます).センタースピカ―は D-307C と ONKYO 製品でそろえた.現在,5.1ch サラウンド を楽しんでいる.追記(2017/07/07):スピーカーを D-202AIILTD(インピーダンス:5Ω)に取り替えたのに伴って,アンプ NR-365 も TX-L50 に乗り替えた.5.1ch サラウンド用の設定はそのレビュー NR-365 の後継機? ― 追記:新ファームウェアは Good !! に記した.※ インターネットで見てみると,意外とスピーカーケーブルとの接触不良が多いようです.高価なケーブルは10m以内なら不要です.銅の芯線をよじったときの手垢が悪さをします.接続したら,KURE 5-56 をさっと一吹きすれば十分です.

2.192kHz/24bit って何だ
 ハイレゾとの出会いは全くの偶然だった.アンプを購入してしばらく経ってからのことだが,改めて説明書を読んでみると,‘192kHz/24bit D/A コンバーター搭載’とある(D/A は デジタル→アナログ の意味).あれ,何だったかなあと「192kHz/24bit とは」で検索してみると,引っかかりました, ハイレゾとは が.その解説を読んで,思い出しました.昔,フーリエ変換(ラプラス変換)を自学して,アナログ/デジタル(A/D) 変換の原理を学んだことがありました.CD はそのデジタル側における不連続な振幅の表現でした.CD は円盤形ですが,その構造は大別して3層から成ります(後々のために学んでおきましょう).外側はポリカーボネートという透明なプラスチック(樹脂)の厚い層です.その片面は赤色レーザーを照射して作られたμm 単位の不連続な凹凸が付けてあり(μ=マイクロ=10-6 ),それに光を反射するアルミニウムを蒸着して薄い層ができます.その蒸着層を保護しレーベルを印刷する薄い膜を張付けたのが反対側の外層です.CD を再生するときは,レーザー光を当てると,凸面では乱反射が起こり,凹面では全部反射して,凹凸に応じて反射光の強弱が変わります.その強弱をセンサーで読み取って 0と1 の違いと見なし,2進法を適用します.その桁の単位が bit で,1bit=2の1乗=21=2(通り の情報量:0,1),2bit=2の2乗=22=4(通り:00,01,10,11),3bit=2,・・・.こうして,CD に凹と凸の連続する並びを付けると,それは0と1の連続的な並びと同値になり,CD からの情報は 2進法の信号になります.凹凸はレーザー光で認識できるように最小の大きさが制限され,ベートーヴェンの「第9」が収まる74分の演奏時間という条件で,CD のデジタルな信号量が定まったそうです(現在は リニア PCM で最大 79分58秒まで可能):
サンプリング周波数(Hz:ヘルツ)
アナログ信号からデジタル信号への変換をA/D変換といいますが,その時のデータをサンプリングする(=一定の間隔で測定する)時間間隔を ‘サンプリング周期(秒)’ といい,その逆数が ‘サンプリング周波数(Hz)’ です.
CD のサンプリング周波数 44.1kHz の場合、1秒間に44100回記録している
半分の 22.05kHz までの音が聞ける(標本化定理)

量子化ビット数(bit:ビット)
アナログ信号からデジタル信号へのA/D変換の際に,信号(今の場合 音)の大きさを何段階に分割したかを表す数値です.この値が高いほど,元の信号により近いデータが得られます.
CD の量子化ビット数 16bit の場合、216=65536段階で記録している。
※ レーザー光で付けられた凹凸(pit:ピット という.※ bit でない!)は CD に付けられた螺線状の線(トラック)上に並んでいる.ピットの最小値は当時の技術水準により 0.83μm と定められた.CD の規格は 44.1kHz/16bit だから,1/44100 秒に対応する長さ(LCD と書こう)に(最大)16 個のピットが並び ,0000000000000000 から 1111111111111111 の間の信号のどれかを表します.CD で74分間演奏するのに必要なトラック長は,2ch ステレオ録音を考慮し,誤り防止・訂正/その他情報用の分を無視すると,LCDx2(ch)x44100x60(秒)x74(分)x2-6 (m) になります.(LCD≒0.83x16=13.28 μm とすると,CD のトラック長は約5.2km になります.80分の演奏時間とすると ざっと見積もって6km となり,80分とした別方法の結果7km 程度と比べて 丸としましょう ).
 もし,1秒間に192000回記録して,音の大きさを 2の24乗=16777216段階で記録すれば 192kHz/24bit になり,階段状の信号は CD のものより遙かに滑らかになって,良い音が期待されます.ハイレゾの魅力は正にこの点にあります.私を含めて,ハイレゾ初心者が先ず試みるのは 96kHz/24bit への変換でしょう.

3.Upconv を試す
 アンプと HDMI ケーブルで繋いだとして,パソコン側のハイレゾ信号がアンプに届くかという問題がある.ハイレゾ音を聞くのはかなりハードルが高い―金銭的にも―ようだ.自分は運が良かった.たまたま,パソコンのグラフィックスボードにAMD Radion シリーズのもの(←「RH5870・・・」をクリック)を使っていたため,HDMIケーブル経由でハイレゾ音源を再生 できた.ハイレゾ音源をヘッドホン/イヤホンで聴くよりはずっと良いので,デスクトップ・パソコンをお持ちの方は ヤフオク!で安く購入 されることを薦めます( HDMI 端子と,確実に動作することを確かめて!!)

 という訳で,CD をハイレゾ化する準備が整った.ハイレゾ化するソフトを探すが,何をやっているのかが分かりやすい日本語のもの―日本人のもの―が取りかかり易い.Upconv にしたのはこんな理由からだが,細かな設定ができるなど素晴らしい.ただ,問題は1曲を変換するのに何分もかかることだった.CPU が4.6GHz まで OC (オーバークロック)でき,メモリーも W3U1600HQ-8G (8GB2枚組)で16GB に拡張しているにも関わらず(<<完了オプション>>の ファイル I/O メモリバッファ(MB) も 6000),Upconv 稼働中は CPU が 4.3GHz まで上がり,使用率は CPU とメモリー 共に 100% 近くまで上がることもある.ただ,最近になって,オーバーサンプリング(x2) をしなくても(←必要なことが判明)大差がないことが分かってからは,演奏時間の7~8割割近くまで変換時間を下げられた(3分の曲で2分30秒,10分の曲で7分30秒).オーバーサンプリングの操作は 100kHz 近くもの超高音を考慮に入れるものだが,以下の議論で,低音を含む可聴域および 20kHz 辺りまでの問題を解決する方が先だと結論され,よってその後に考慮すべきと思われる.

 ここで,オーバークロッカー(OCer) としての独り言.最後にアップロードしたブログ以後,CPU やマザーボード の劇的な改良がなされた様子はない.常用 OC としては 5GHz は無理で,このあたりが限界と思われる.そろそろ,このブログの表題も「パソコンのオーバークロック(OC)勉強中→終了中」に替えようかな.そこで,OCer の皆さんも,持ち合わせている素晴らしい OC パソコンを―将来性が大いに期待される―ハイレゾの分野に活用されては如何なものか.特に,OC も好きだが,音楽も大好きという方にお薦めしたい.私はもう老いてきて,耳も弱ってきている.2万Hz 近くまで聞こえる若い方は特に大歓迎!

 Upconv を始めた頃は,WaveSpectra のスペクトルを見ながら,HFC(高域カット周波数) のちょっとした違いに気をつけながら,自分の聴力は 1万2~3千 Hz が限界(※ ボリュームを最高にすると,1万6千 Hz)だから,ノイズリダクション(NR) は 14kHz がいいところなどと思ながら,大のお気に入りの 姫神の CD をハイレゾ変換しまくっていた.ノイズの影に隠れていた楽器音が聞こえるようになったかなという程度ではあったが,それでも満足していた.この NR(14kHz) 設定が後に幸運をもたらすことになるとは!!
 だんだん高じてきて,昔買った 今はもう無い OLDIES のシリーズもの(※ 音質の良いのは 「僕たちの洋楽ヒット」シリーズ)を引っ張り出してきて,いい音になったぞと自己満足に陥っていた.さらに,CD レンタルショップから和物/洋物を問わず借りまくってきて,パソコンに入れた.おかげで2TB(=2x1024GB) の HDD を増設する羽目になった.そうやっているうちに,転機は突然降ってきた.

4.昔のアルバムのハイレゾ音源が手に入った
 自分が持っている昔のアルバム と曲目が重なる ハイレゾ音源のアルバム が見つかった.ハイレゾ・アルバムはこうでなくちゃーと思いながら,重なる曲目を早速ダウンロードして,自分がハイレゾ化したものと比較した.ややや,ハイレゾ音源の方が‘濁りが少なくて,各楽器の音がクリア’な感じがするぞ(何度も聞き比べて確認する).これは,CD には思ったよりノイズが含まれているということか? という訳で,ノイズリダクション NR を 14kHz からだんだん下げてみた.あれ,どんどん良くなっていくぞと,遂には人の声の領域の 300Hz まで下げてしまった.これで,自分の耳には,ハイレゾ音源とハイレゾ化したものとの区別があまりつかなくなった.試しに,ハイレゾ音源のファイルを EcoDecoTooL で CD 音質(44.1kHz/16bit) に下げたファイルを作り,それを改めてハイレゾ化してみても元のハイレゾ音源の音質と変わらないものができた.これは Upconv がうまく働いていることを示している( CD が上質になればなるほど,ハイレゾ化の効果は下がります).結局,NR(300Hz) で全ての CD を何日もかけてハイレゾ化することになってしまったが,確かにどのファイルもより良くなったように感じられた.
 この頃は気分がハイになっていて,好きな演奏家/歌手のアルバムを集めまくっていた.その中に,アルバムには全く入っておらず,シングル盤で買わないといけない曲があった.それは(あまり言いたくはないが)ノイズだらけの演奏で歌っているような酷いものだった― この敬愛して止まない天才はノリで歌えるの?.このノイズには NR(300Hz) も通じないほどで,意を決してどんどん下げていき,とうとう100Hz まで行き着いてしまった( 90Hz では NR が効かないようで,これが限界と思われる).これで,ノイズが無くなるわけでは無いが,軽減はされている.他の曲でも試してみたが,不都合なことは,1つの例外?を除いて,起こらなかった.これがブログの始めに出てきた NR(100Hz,L2) の由来である.例外?というのは,購入したときから超低音が気になっていた曲で,素晴らしい声の歌手の有名な初シングル盤のことである.NR(100Hz)でハイレゾ化すると,むしろはっきりと30Hz 位の超低音が聞こえた.ただし,演奏とは関係ないようで,録音環境の問題のように思える.NR(300Hz)にしても大差なかったので,CD の所為にして無視することにして,NR(100Hz) でハイレゾ化を全曲やり直すことにした.千曲以上もあるだろうに,これは私の気質のせいなのだろう.その結末は“幾ら電気代を使えば済むのよ”と我が家の大蔵大臣に大目玉を食う羽目に!まだ洋楽/クラシックの方は始まったばかり何だがなあ.
 冗談はさておき,CD のノイズはこれほどの低音にも含まれるのかという疑問がふつふつと沸き上がってくる.それは当然だろう.今までハイレゾと騒いでいたので,高音にばかり頭が向いていたが,‘高音質’という観点からは,可聴域全体も含む CD のノイズを調べ直すべきだと遅まきながら気がついた.ノイズを付加するものにディザがあるが,自分の理解としては‘ぎらぎら感を和らげる’手法だから DL(2) が適当ではないかとずっとやってきた.だが,NR(100Hz) の後は CD はノイズだらけだから,ディザにあまり拘る必要もないかと 時々 DL(0) も試してみた.すると,クラシック奏者の音質が良いごく最近の CD (Ⓟ 2016:Publish 2016.参考:Ⓟ 20xx (制作・出版が2000年以降の保証付き CD)は音質が良いが,Ⓟ が無いものは信用できない)で,ノイズに隠れていた高音の楽器音が聞こえてきた.という訳でディザには拘らなくてよいようだ.いろいろ調べてみると,ディザは超高音の倍音を削る作用もあるとのこと.しかしながら,美声が魅力的な女性歌手の CD は,昔に録音したマスターテープを使っているためか,ノイズに負けないように高音を強調する作りになっていたのかな? DL(0) でやると耳に痛いので,この場合は DL(2) が最適だった.という訳で,先ず DL(0) でやってみて,駄目なときだけ DL(1,2) に変更するというのがお薦めです.なお,高音を強制的に弱めるローパスフィルタ LPf はどうも不自然な音になるので,あまり薦めたくはありません.それでも,ずっと昔に作られた CD では必要な場合もあるようです.その時は,LPf(20,18,16,・・・,3 kHz) と少しずつ下げて見るのがよいでしょう.

5.CD のノイズはその原料の材質に根源がある
 先の 2.で,CD 円盤(←復習)は,光を反射する凹凸のアルミニウム蒸着層があり,それを挟んで,保護膜およびレーベルを印刷する層と,光をよく通すポリカーボネートの厚い樹脂層からできていることを学んだ.ポリカーボネートおよびアルミの反射材には問題があるようです.
 第1.劣化の問題ポリカーボネートは湿気/温度/紫外線などに弱く,劣化して透明度が徐々に落ちてくるようです.すると,レーザー光の透過度が下がって反射光の強度差の判別に誤る,つまり 0,1 の識別に誤りが出るようになって,ノイズが増加します.
 凹凸のあるアルミ蒸着層は両側からプラスチックで張り合わされており,経年劣化等によって剥がれ気味になると,空気が浸みて酸化します.当然,反射光が減少して強い光が少なくなり,ノイズは増大します.
 これらの劣化は自然に起こるだけでなく,CD のずぼらな扱いに起因する方が多いとの指摘もあります.さらに,CD は 1980年代に登場したが,その年代に作られたものの 1~2割 に劣化が見つかり,それはメーカー側の技術不足に責任がある場合もあるとのこと.CD を長持ちさせる方法はこちらのサイト を参照.
 第2.素材そのものの,および製造工程の問題:レーザー光を反射する凹凸のアルミ蒸着層のアルミニウムは腐食に弱い.この金属を使うのは安いからで,高くてもよいから,腐食せず,より反射率が高い物といえば 金それも24金(24k)である.それで作られたのがその名も ゴールド CD です.現在では,高音質化技術が広まり,ゴールド CD は限定盤や記念盤などのプレミアム仕様として使われることが多いとのことです.
 CD を大量生産するためには,いわゆる金型―たこ焼き器もその1つ―が必要で,CD の場合は「スタンパー」と呼ばれます.スタンパーには先に述べた極小の凹凸が付いています.CD は,スタンパーにポリカーボネートを流し込み,ポリカーボネートを剥がしてアルミを蒸着し,そして保護膜と印刷用の膜の層を接着すればできあがります(→ CDプレスの工程 ~スタンパから盤面印刷まで - YouTube.※ 蒸着法より進んだスパッタ法を用いている ).ポリカーボネートは完全には透明でなく,また粘性があるので,スタンパーに流し込んだときに微細な凹凸を 100% は再現できないとのことです.したがって,より透明で,より粘性の小さい素材が求められた.戦国時代に突入した「高音質CD」の明日を読み解く によると,2007年,より透明な素材として,液晶パネル用の高純度ポリカーボネートを2社が共同開発し,SHM-CDの名で売り出した.翌年,別の社が同様のポリカーボネートを採用し,さらに反射膜をアルミより反射率が高い 銀を主体とする合金に替えた HQCD を売り出した.さらにその後,ブルーレイ用に試みた高純度のポリカーボネート用い,さらにブルーレイ用の青色レーザーを応用してスタンパーの製造工程を見直し,より高精細な凹凸のスタンパーを開発した会社も現れました.CD のブランド名は Blu-spec CD2 です.スタンパーにはかなりの固さが必要で,そのために従来の製造過程では,平らに磨かれたガラス円盤にレジストと呼ばれる感光剤を塗って赤色レーザー光線を照射して μm 単位の凹凸を付ける工程に始まり,その後何工程も経てスタンパーを作るそうです.Blu-spec CD2 ではシリコン円盤に金属酸化物から成る無機レジストを塗って,青色レーザー光線を照射して凹凸を付け,次の工程でスタンパーができあがります.この方法ではスタンパを改めて作り直す必要があります(先の3社は保管してあるスタンパーが使える).よって,売り出された CD は高価になるかと思いきや 意外に安いようです.
 第3.究極の CD 素材はガラスである:「光学の・・・」と書いた記事の上に 方解石の結晶 を置いて見てみましょう.すると「光学の・・・」の文字が 2重に見えるでしょう.このような現象は複屈折と呼ばれます.CD は,レーザー光線をポリカーボネートの裏側のアルミ膜に照射し,その反射光の強弱を読み取るから,反射光が2重になったりしたら困る.残念ながら,ポリカーボネートの薄型基板は複屈折の性質をもち(←「光学ガラス(参考)」の低い値に注目!),それを取り除くのは困難なようだ.ガラスは複屈折がなく,化学的耐久性もポリカーボネートより遥かに優れているので CD 材料として以前から試みられてきたそうです.ただし,カメラのレンズに使うような高級なガラスが必要で―材料費だけで1枚5万円!―,製造工程も殆ど手作業なため非常に高額になるそうです.それでは ガラス CD に情熱と執念を燃やして取り組んだ 福井末憲 氏の インタビュー記事 その1その2 をどうぞ.
 第4.カラヤンの「第9」(Ⓟ 1963,2007) を購入:Ⓟ 1963 はドイツ グラモフォン,Ⓟ 2007 は 日本 ユニバーサルミュージック― SHM-CD として商品化―です.福井末憲 氏の記事 その2 によると,カラヤンが1962年に録音した「ベートーヴェン 交響曲第9番『合唱付き』」は世に知られた名盤で,氏はその盤のオリジナルマスターテープから ガラス CD を制作し,限定300セット―税込で各20万円―を完売したとのこと.その音質は高く評価され,「こんなにも情熱的な演奏だったとは!」,「カラヤンのイメージが180度変わった」という声も多く寄せられたそうです.自分も聞いてみたいと思ったが,それは無理なので,同じマスターテープによるSHM-CD 盤を購入した.クラシック音楽のことは分からないが,カスタマーレビューによると,“高音部のイヤミがかなり減少し、かつ、音の芯がより太く力強くなった”とのこと.また,これほど良くなったのは,元のマスターテープをデジタルにリマスターしたものから制作したためでもあろうとの指摘があった.一方,別のサイトでも,“他のCDだと聞こえないような音もよく聴こえてきます”と高く評価され,また,リマスタリング云々とも指摘された.ともかく,この CD では音質が相当に向上したようである.ただし,ガラス CD と SHM-CD の比較は,リマスタリングの話を脇に置いては語れないようです.
 さて,上で議論したカラヤンの「第9」を収録した SHM-CD を Upconv で処理してみよう.まず HFC(Auto)_DL(0)_NR(100Hz,L2)_LPf( kHz) でやってみると,なんとハイレゾ化したものの方が音がクリアではないか.それは正に「合唱」の際にはっきりと感じられ,その際のバックの演奏もよく聞こえた.そのことは HFC を 12kHz,13kHz,14kHz ,・・・と 20kHz まで上げてみても変わらなかった.ステレオ環境に因ると思われる音の反響の具合は HFC の値によって変わり,自分の環境では 17kHz が耳に心地よかった.これらのことが意味するのは,NR(100Hz,L2) によって,いずれの場合も SHM-CD にふくまれていたノイズが軽減されたということでしょう.もちろん,ノイズを減らしたといっても,カラヤンの演奏から音がズレてしまっては意味はないが,自分が聞いたところでは ボーカル,合唱,楽器演奏の音質は変わらずにノイズだけ下げられたように感じた(自分は特にノイズ無しが好みかも).自分はクラシックには疎いのでその点は各自確かめていただきたい.これらの議論から結論づけられることは,もしオリジナルのマスターテープにノイズが含まれていれば,Upconv はそのノイズをも強力に取り除けることを意味し,“マスターテープの音質にさらに近づいた”というレベルをさらに凌いでいる.つまり,Upconv は非常に強力なリマスターリング・ソフトになる可能性を秘めていそうです.備わっている微調整機能を活用し,「実験中」の部分その他に改良を加えていけば,さらに完成度が上がるでしょう.最後にそれをプッシュする議論を.

6.Upconve の HFC(高域カット周波数),HFA(高域補間モード)
 ハイレゾ化画像-最近の CD-先ず,最近の良質な CD(Ⓟ 2013) を HFC(Auto) でハイレゾ化した画像から見ていこう.画像の上段の CD のスペクトル表示から分かるように,高い音量を示す周波数は CD の限度いっぱいの 20kHz 超まで伸び,その豊かな音域の広さは(測定した時刻までに発せられた音全体の)激しく振動する「ピーク」の赤い線でも明らかです.下の段のハイレゾ化は HFC(Auto) でやりましたが―この図では HFC は分からないでしょう―,演奏の始めのピークのグラフで調べたところ,HFC≒20.7kHz 辺りのようです(HFC を幾らに取ったかが分からないのがよい取り方です).-40dB の音量に合わせた白線は,元の CD の音量とハイレゾ化されたものを比較するために描かれています.ハイレゾ変換されたもののピーク音量が,可聴域においても,元の CD より勝っていることが分かります.これは変換した方が,可聴域でもすっきりした音になると解釈できます.HFC の周波数を超えた領域で Upconv の高域補間モード HFA―私のは Over Tone EX(hfa3)―が,CD には含まれない倍音を付加して,実際の生の歌声/生の楽器の音に近づけたら Good job ですね.この図はそう思わせますね.実際,元の CD の音質そのものがかなり良いのですが,ハイレゾ化したものは,高音の音が柔らかくなり かつ 伸びやかになったように感じます.たぶん,ハイレゾ化は耳には聞こえない超高音の音を取り入れるだけでなく,44.1kHz/16bit→96kHz/24bit 変換によって可聴部全域における音をも滑らかにする作用,さらには Upconv のノイズ軽減 NR 作用が相まって,非常に良い効果をもたらしたと認識しています.
 HFC 変更画像-古い CD -次に―多くの人がハイレゾ化によって良い音にならないかなあと思っているであろう―昔の CD のハイレゾ化を考えます. 1958年の大ヒット曲の LP レコードのマスターテープをリマスタリングして作ったであろう CD (Ⓟ 1994.※インターネット上では見つからなかった) をハイレゾ化してみましょう.元の古い CD のピーク振動を見れば分かるように,6kHz 辺りを過ぎる辺りから,振動の激しさで表される 実際の歌声/楽器の音(=実音 と呼ぼう)が減少し始め,破線で示した 15kHz 辺りからは元の LP レコードマスタテープに含まれていたであろうランダム・ノイズが一見大半のように見えます.下段のハイレゾ化の結果を HFC が 20kHz,16kHz,Auto の順に見ていきましょう(図示の関係で 30kHz 付近で図をカット).HFC(20kHz) のものをピーク振動で見ますと,以外にも,HFC 以上で倍音が生成されているのが分かります.これは CD を作る際に行われたデジタル・リマスタリングの効果が 15~20kHz にも現れて,その領域においても実音が結構含まれているためと思われます.HFC(16kHz),HFC(Auto)(定まった HFC は 14.1kHz 付近)と下がるにつれ,倍音付加効果の影響が大きくなっていきます.15kHz 付近までは実音が多く含まれているので,この場合は HFC(Auto) がうまく働いたと言えるでしょう.ただ,HFC(16kHz),HFC(Auto) の場合では,高域補間モード HFA が効き過ぎて,HFC 付近でのピーク振動の様子が山高になって不自然です.このような現象は古い CD の場合に多く見られ,Upkonv がソフト完成に向けてまだ工夫する余地があると思われます.この点については最後のところでもう少し議論しましょう.
 HFC 変更画像-ピアノ独奏-最後は HFC(Auto) がうまく行かない場合です.それは本当に古い CD の場合の他に全く新しい CD でも起こります.実はクラシック CD の場合に意外に多いようです.ここではピアノ独奏の CD (Ⓟ 2015) の場合を取り上げます.右画像の上段右図は CD のスペクトル表示ですが,実音が入っているのは 11kHz までのようで,12kHz を過ぎると,先ほどの‘古い CD’の場合と比べても 赤いピークの振動幅が殆どなく,ランダム・ノイズさえも無さそうに思えます.実際,下段右の HFC(15kHz) の場合は HFA を OverTone Ex(hfa3)(←倍音を付加する) でやった訳ですが,そのピークの振動幅は,同じ HFC で HFA を Noise(hfa1)(←ランダムノイズを付加する) にした場合よりも,狭い結果になりました(確かめてあります).つまり,HFC(15kHz) の場合は HFC 以上の領域には実音は殆ど完璧にないと言えます.ピアノ単独の音は意外に低い音域にしか無いのですね.下段真ん中の図より,HFC(12kHz) の場合でも,倍音は殆ど作られていないことが分かります.HFC(11kHz) として,ようやっと倍音がまあまあ含まれるようになりました.さて,HFC(Auto) の場合はというと,実は Upconv を作動中に異常停止してしまいました.何事が起こったのかと HFC を手動で 10kHz,9kHz,8kHz,7kHz と下げていったところ,10kHz ではうまく行きましたが,9kHz,8kHz では異常停止の事態になりました.7kHz でやっと停止せずに済みましたが,その結果は上段左図にあるように HFC から上はただの線が伸びているだけです.つまり,それは HFA を Cutoff(hfa0)(←高域補間処理無し) とした場合に現れる線です.これらの結果から見て,Upconv は HFC(Auto) の場合にどうしたかというと,振動数の高い方から HFC の値を定めようとして次第に下げて 8kHz ~ 9kHz 辺りに定まり,その途端に異常停止になったと考えられます.何故その領域でと考えて upconv.pdf を開いてみると,関係ありそうな数字が Overtone Ex(hfa3) の解説のところにありました:「4500Hz~10kHzの音声データから、倍音成分を予想して高域に付加します。」この区間にあると,‘hfa3’は真面には働かないようです.ピークの振動幅で考えると,HFC(Auto) でも HFC=10~11kHz に決まるのが自然だと考えられますが,Upconv の決め方は異なるようです.
 そこで,生意気なことを言ってご免なさい.ピークホールド の技術はよく知られていて,CD 歌唱/演奏終了時の CD のピークホールド波形のスペクトルについて,各振動数付近の平均的振動幅は求められます.その幅(多分,dB 単位)がある一定の値を超えたら実音を含むと判定できます.HFC(Auto) で HFC を下げてきて実音を含む幅になったら,そこが Auto の値とするのが解りやすいと思います.
 なお,‘古い CD の場合’にピークのグラフの HFC 付近における増減が不自然に感じました.「倍音成分を予想して高域に付加します」とありますが,HFC 付近での付加量が多すぎないでしょうか.ピークの下の方の値を繋いだ‘包絡線のような線’が HFC で滑らかに下方の線に繋がるよう調節できればと思います.HFC は可聴域ぎりぎりかその上に取られ,またHFC 周波数以上の音量が可聴域のものより数段低くなりますので,その程度の変更は問題ないと思われます.

7.最後におねだりを
 Upconv を利用させていただいて,設定にこうした方が使いやすいと思われる点がいくつかありました.この際ですので,よろしくお願いいたします.
   i:ノイズリダクションのカットオフ周波数に書き入れる数値は Upconv を終了すると消えてしまいます.保持できるようにしていただけないでしょうか.
   ii:多くのファイルを HFC(Auto) でやっていると,異常終了した際に警告の画面が現れてどうするか聞いて,長い時間先に進まないようです.大抵の場合,席を外しています(殆ど睡眠中)ので,直ぐ先に進んで頂けたら時間と電気代が助かります.後で,「.err」のファイルを(検索で)探せば良いだけですので.
  iii:完了オプション の 電源OFF にチェックを入れておいたときは,有無を言わさずパソコンの電源が切れます.他の作業をしているときなど,仕事の保存をするために,これこそ警告画面が出てきて,1分程度の猶予を与えて欲しく思います.
  iv:Upconv は初心者にはかなりハードルが高く,それぞれの設定の意味が分かるのに時間がかかります.パソコン環境に因っては,1曲処理するのに1時間以上かかり,結局,成果が出ないうちにやめていく人も多いと思います.私も各設定については,こうすればこうなる程度のことしか理解できていないと思います.特に,hfa2/3 オプションについては,何故そういうオプションがあるのか,全然理解できていません.それぞれの設定を何故したかについてもう少し解説していただけたら,皆さん助かると思われます.

 お願いごとはこのくらいかな.最後に謝辞を.
 所謂ハイレゾ音源を幾つか買い求めてダウンロードしました.確かに音は綺麗でしたが,どうも高音と低音をカットしてあるようで,万人向けの温和しい音に設定したように感じました.Upconv は幅の広い設定ができますので,さらにソフトの完成に磨きをかけていけば,願わくば,デジタル・リマスタリング界に名を成す(君臨する)ようになっていただきたいと存じます.このような素晴らしいソフトを開発していただき,本当に感謝に堪えません.なお,このブログで誤りがありましたら,ご指摘ください.速攻で訂正いたします.
そうそう,「ライセンスはGPLとして公開します」とありますが,商用使用についてはどうなのでしょうか.勝手にさせてはならないと思います.