トップページへ
□ 受験・学習参考書としての『高校数学+α :基礎と論理の物語』

 『高校数学+α :基礎と論理の物語』は普通の学習参考書とはかなり違います. 受験を考えたとき,この参考書はどのように学ぶと良いのでしょうか.その事を考慮した指針を考えてみましょう.
 読んでみて,すらすら読める,または少し難しいが“面白い”から何とか読みたいという人はそのまま読める間は続けて下さい.高校数学を超える“+α”の部分については深入りする必要は無く,気分転換のつもりで軽く流せばよいでしょう.重要な数式計算は全てやるという気持ちで臨んで下さい.
 面白そうなのだが難しいと感じる人は,受験数学を知り尽くしまた的確なアドバイスをしていただけるサイト 基礎からの高校数学 で勉強の仕方および勉強するときの心構えが学べるでしょう.さらに上を目指す人はもう一度この門をたたいて下さい. 基礎からの高校数学 による我がサイトの推薦文は「・・・典型問題なら解けるのに、いざ模試になると思わぬ減点がされてしまう、というような中級者から上級者へ一皮向けるのにきっと役に立ってくれるでしょう。」というものです.受験という観点で言うと,その通りなのでしょう.以下,“中級者から上級者へ一皮向ける”方法を念頭に置いて『高校数学+α・・・』の学び方についてアドバイスしましょう.

 まず,数学全般について言えることですが,定義つまり「言葉の意味」は正確に理解しておくことが絶対条件です.次に,述べられている内容を正確に理解するために,「主語・述語・目的語・補語」が何であるかを常に意識しましょう.特に主語を意識することは絶対です.話し言葉では主語が省略される曖昧(あいまい)な表現が多いのですが,それを数学に持ち込んではいけません.「〜は(〜が)」がいつでも言えるように訓練しましょう.また,代名詞は曖昧に使われる場合が多いので,それを使わない訓練もしましょう.これらのことは考えている対象や事柄を正確に把握し,物事を論理的に推し進めて行くのに肝要です.したがって,“問題の解答は必ず文章になるように書く”ことを心がけましょう.数式だけを並べるか,それとも,文章として答えるか,この点が論理的な能力が備わるかどうかの分岐点です.証明問題に苦痛を感じなくなったらOKでしょう.
 文章表現の重要性は大学教授によっても指摘されています.名古屋大学の 浪川 幸彦 先生のシンポジウム発表 を読んでみましょう.京都大学教授 上野 健爾 先生 も心配しておられます.最近(2004.03.07)あらきけいすけ先生の日記でも、国語の重要性が論理力との関連(『証明の 正しい 適切な書き方』)で議論されているのを知る.広島大学の 浅野 晃 先生 の雑感「数学の試験」でも“数学という教科は,ただ答えを出せばよいというものでは決してないということだ.数学の試験の答案は,問題の解法と解答を採点者に説明する報告書である.”と述べています(2004.04.16).

 正確さを求める訓練はもう1つの非常に重要な結果をもたらします.ある事を正確に表現できるときはその事についての「明確なイメージ」があるときです.それは数学についても同じで,例えば「変数」については,数直線上を動き回る動点のようにイメージしていれば,「いろいろな値を取れる文字」と表現できるわけです ( 定義つまり「言葉の意味」のイメージは最も重要です).したがって,正確さを求める訓練は“数学の対象や事柄を「明確なイメージ」として捉える訓練”でもあり,それはだんだん可能になっていきます.そのようなイメージ化は理解することを容易にし,イメージに従って数式が書け,文章が書けるようになっていきます.そうそう,イメージ化は記憶するときの不可欠の要素でした.訓練によって,かなり抽象的な事柄(例えば,a+b=b+a のような法則や公理)もイメージ的にとらえることができるようになります.君達が理解したことの殆どは,数式計算によって証明した事柄でなく,イメージ化が成功した事柄であるといえば納得できるでしょう.『高校数学+α・・・』の第1章は数直線の議論から始まり,実数についてのイメージを先ず作り上げていますね.学習参考書としてはこのようなイメージ作りが大切でしょう.後の各章の始めでも同様にイメージ作りが重視されます.特に,第7章 のベクトルの導入に際してなされるイメージ作りは類例を見ないものでしょう.
 数式を用いた厳密な証明は,「負×負は正」の証明のようにイメージだけでは尽くせない部分を補い,また,多くの場合においてはあるイメージが正しいことを確認する作業です.君たち高校生は“自分なりのイメージを作り上げ,それが正しいことをチェックする”作業に多くのエネルギーを割いても惜しくはありません.「アイデアがひらめく」とは“解法に必要なイメージができあがった瞬間”を指しています.

 さて,ある対象や事柄のイメージはただ1通りではなく,人によって異なり,また数学の発達によって劇的に変化します.普通の言い方をすれば,“種々の考え方が可能である.(よって解法は何通りもある)”でしょうか.異なるイメージは異なる解法をもたらし,ある新しいイメージは今までよりずっと深い理解をもたらし,斬新な解法を与えます. 『高校数学+α・・・』が“中級者から上級者へ一皮向ける”のに役立つとすれば君たちに新しいイメージを強調するからでしょう.例えば,§§3.5.2の問題「放物線 y = x2 を,x 方向に p,y 方向に q だけ平行移動して,直線 y = 2x より常に上にあるようにしたい.p,q が満たすべき条件を求めよ.」では常に成り立つ恒不等式のイメージが強調されます.また,§§3.6.1の関数のグラフの平行移動の議論では,関数 y=f(x) の方程式としての側面,および“関数 y=f(x) のグラフは方程式 y=f(x) を満たす点(x,y)の集合である”というイメージが強調されて議論が進行していきます.多くの人にとってはそれらは新しいイメージでしょうが,その御利益(ごりやく)に与(あずか)ればきっと新イメージを喜んで受け入れることでしょう.他のところでも同様に新イメージが強調されます.

 以上,対象や事柄の正確な把握とそのイメージの重要性を強調しました.それらは受験数学にとっても非常に重要な要素です.受験を意識して『高校数学+α・・・』を学ぶときはそれらを大切にして読み進めて下さい.それが十分に出来るようになったら,論理の構造にも目を向けましょう.

 先日(2003.11.29),『高校数学+α・・・』を著作するときに参考にしたサイト 数学のいずみ の早苗雅史先生(札幌新川高校) のお誘いにより,よりよい数学の授業を目指す「数学教育実践研究会」に参加させていただきました.そこで,多くの有意義な研究成果を拝見しましたが,高校生の現状について気になることを耳にしました.“今時の高校生は問題の解法を1通りで済ませようとする”というのです.君たちの多くは心当たりがあるのじゃないかな.なるほど,1通りの解法で済ますというのは無駄がない合理的な方法で,特に初心者にとっては明確なイメージを作るのにも重要です.ただし,その1通りの解法はたぶんに初等的な解法であり,“中級者から上級者へ一皮向ける”には不十分でしょう.ある程度の力がついてきたら,さらに力がつくように,よりよいイメージを求めて模索することが大事です.
 私が小学校5年生のときの担任は尊敬できる先生でした.その先生が「今週の目標」として掲げた目標は1年間黒板の上の壁に貼られていました:「もっと良い方法を考えよう

 インターネットの受験相談掲示板を見ていると,真面目に勉強はしているのだが,“壁にぶつかっている人”が多いと感じます.要領の良い勉強法を求めて失敗し,記憶に頼る勉強も上手く行かなかった.しかしながら,志望が高く,何としても数学を得意科目にしたい.そういう人が壁を突破するための最後の方法があります.
先ずはここの下の方 サブサイト で紹介している偏差値70からの大学受験(新サイト)を読んで,やる気の出るアドレナリンをドクドク分泌しましょう.・・・どうでしょう.上手くやろうなどというケチな考えは消え失せて,死ぬか生きるかのせっぱ詰まった大問題に直面していると思えてきましたか.実際君が抱えている問題は君が生まれ変わるほどの大変革を君の精神に対して求めています.そう思えてきた人だけが次に進んで下さい.
君にとってその問題を解くことは意義があると思える“君にとっての難問”を選びます.実際にはつまらない問題だったら困るので,先生等に聞いて良問であることを確かめておきます.1)問題文の一言一句の意味を調べ,問題の意味を完全に理解します.図が必要なら丁寧に描きます.2)その問題を解くために必要だと思われる分野を勉強し直します.その分野の問題を解くのではなく,定義などの約束事の確認,基本公式の確認,例題の見直しなどを行って,忘れていたことを思い出します.必要だと思われる分野が複数あれば,それらの全部を見直します.3)いよいよ本気でその問題に挑戦します.制限時間は無制限.徹夜なんぞは序の口です.解けるまで考え続け,必要な分野を調べ続けます.4)ある方法が上手く行かない場合に,別の方法を考えます.別の方法が浮かぶようになってきたらしめたものです.君の中に変革が起こっています.別の方法を実行するのに必要な分野の勉強をします.5)考え疲れてヘトヘトになり,気分転換や睡眠をとってその問題を忘れます.そのときでもなお,君の頭の中では無意識にその問題を考えています.君はその問題の意味をよく理解しており,その問題を今まで見たことがない角度から見る条件が整います.そしてある角度で見た瞬間に,君に閃きの稲妻がとどろき,一瞬にして解けます.( この節:2004.05.06 )


 2003年度の東大前期入試問題に興味ある問題が出ました:「円周率が 3.05 より大きいことを証明せよ.」これは目にしたことのないタイプの問題として話題になり,最近( 2003.12.24 ),新聞(朝日)でも取り上げられました.記事のタイトルは「変わる入試--転機の教育」で,記事の真ん中で
考える力  危機感 出題に新潮流
の文字が躍っていました.
 今までの問題では習った公式や定理を“使いこなす要領の良さ”が試されてきました.しかし,大学生の学力がどんどん落ち込むにつれて,ようやく本来の“考える力”がある学生を合格させようという機運が出てきたようです.バブルが崩壊した21世紀,日本はアイデア溢れた付加価値のあるものを生み出すしか再生の道は無いようです.大学は今「創造力のある学生」を発掘したいと真剣に考えています.
 上の円周率の問題の起源は,たぶん,はさみうちの原理の基となったアルキメデスによるπの近似計算を利用したものでしょう.§§11.3.2 で取り上げていますので,君もやってみましょう.そこでは“ああ,こんな風に考えるのか”とあくまでも考え方(=イメージ)を自分のものにするという気持ちで臨みましょう.(2003.12.25)

 「大学入試連絡協議会」は数学の入試問題の作成・採点に携わっている関西の大学の理工系学部の先生方と高校の先生方が意見交換する場です.そこに出席された 数学のみえる丘 の深川久先生のまとめ大学の先生方からのお話受験生必見の情報です.(2004.02.17)
 センター試験を改革 教科書離れてやわらか問題に (2000.2.28 asahi.com より)
大学入試センター試験をめぐって文部省の大学審議会特別委員会は、受験生の思考力や発想力をみるために現在の試験に併せて新たなタイプの試験を導入する検討を始めた。「問題文に並ぶ数字や言葉から法則性を見つける」「文章が論理的に誤っていないかどうか判断する」というように、高校の授業や教科書とは直接関係がない出題が想定される。大学生の学力低下が指摘される中で、基礎的な能力や適性の有無を判定する手だてとして浮上した。大学審はこのほか、受験生にとって「やり直し」がきく制度にするため、センター試験を現在の年1回実施から、2回以上に増やすことについても検討を進めている。 これらの構想について大学審は、いずれも、新しい学習指導要領で学んだ高校生が初めて大学受験を迎える2006年のセンター試験からの導入を念頭に置いている模様だ。(2004.02.08)
 
偏差値70からの大学受験--応援情報-- に移行しました.
トップページに戻る.